2011年04月09日

謎を解く鍵はオランダに

「写楽 閉じた国の幻」 島田荘司 著 新潮社 読了。

浮世絵の世界について語られるとき、常にといっていいほど付きまとう謎がある。
それは、写楽は誰なのか?
その謎について、ミステリ作家の立場から島田荘司が独自の論を展開したのがこの小説である。
殺人事件は出てこないが(人の死は出てくる)、ミステリの超大作といっていいだろう。
なんせハードカバーで650ページを余裕で越すヴォリュームである。

現代編と江戸編とが交互に描かれている構成になっている。
主人公は、浮世絵が専門の元学芸員の佐藤貞三。
一枚の絵に気を取られている間に大きな悲劇に見舞われる。
そして家庭崩壊。
自暴自棄になったところで登場するのが、もう一人の主役ともいえる東大の機械工学の教授片桐氏。
この片桐教授の登場のさせ方に、著者の日本論、日本人論を垣間見たような気がした。

江戸編の主役は出版プロデューサーとでもいうべき蔦屋重三郎。
CCCのTSUTAYAはこの人物にその名を由来するようだ。
彼が写楽の生みの親といってもいいだろう。

実はミステリとしては、完成度の低い作品だと思っている。
小説の前半に出てきた伏線と思われるものが、結局説明を加えられないまま終わりを迎えている。
それも一つではなくいくつもだ。
にもかかわらず、この小説は面白い、傑作だと思う。
神保町界隈で繰り広げられる主人公と片桐教授のやり取りも、知的好奇心をそそられて面白いが、なんといっても、小説世界では写楽の正体が納得のいく証拠で明かされているのがいい。

題名にも触れておきたい。
“閉じた国”というのは、鎖国時代の日本を指すのだろうが、本当は著者は現代の日本に着いても語りたかったのではないかと思う。
少なくとも、小説の最初のほうではそのことを意識させる事件がある。

また鎖国政策の中で唯一通商のあった国がオランダだ。
現代編でも江戸編でもオランダが鍵を握るということは、書いてもネタばれにはならないレベルだと思うがどうだろう。

著者による後書きによると、「閉じた国の幻II」を書きたいという希望を持っているそうだ。
おそらく、伏線の回収をはかり、小説として完成度を高めたいという意識があるのではないかと思う。
あるいは文庫化のときに加筆して決定版として出すのかもしれない。
写楽の謎ではないが、この後どうなるのか考えて尾を引いてしまう小説である。
posted by s-crew at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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